脂肪萎縮症について
脂肪萎縮症の症状
京都大学名誉教授
京都大学医学研究科 メディカルイノベーションセンター
脂肪萎縮症になると、食欲が落ちているわけではなく、かえって亢進するにもかかわらず全身あるいは部分的にやせてきます。ただし部分性脂肪萎縮症では、やせが目立たなかったり、部分的に太ったりする場合があります。
ほとんどの患者さんが、インスリンの効きにくい(インスリン抵抗性と呼ばれる)糖尿病をともないます。従来の糖尿病治療薬では改善が難しく、重症化して糖尿病性網膜症、腎症、神経障害を引き起こすことも少なくありません。
また、多くの場合、高トリグリセリド(中性脂肪)血症や非アルコール性脂肪肝などを合併します。いずれも重症であることが多く、血中高トリグリセリドの著しい上昇により急性膵炎を引き起こしたり、非アルコール性脂肪肝から肝硬変へ進展したりすることがあります。
脂肪萎縮症では、女性の場合、多毛症、月経異常(生理不順)、卵胞が発育するのに時間がかかってなかなか排卵しない多嚢胞性卵巣をともなうことが少なくありません。
先天性脂肪萎縮症は、多くの場合、乳幼児期~小児期にあらわれ、思春期以降に糖尿病や高トリグリセリド(中性脂肪)血症などの糖や脂質の代謝異常があらわれます。
糖尿病とは
血糖を減少させるインスリンが不足したり、インスリンの作用が悪くなるために、血糖値が高くなる病気です。
全身性脂肪萎縮症では脂肪組織から分泌されるレプチンなどのアディポカインが激減します(絶対的レプチン不足)。部分性脂肪萎縮症では萎縮部位からのレプチン分泌が不足します(相対的レプチン不足)。レプチンにはインスリンの作用を高める働きがあります。そのため脂肪萎縮症になると、レプチンの減少によりインスリンの作用が悪くなり、インスリン抵抗性糖尿病を起こしやすくなります。
脂肪萎縮症により起こる糖尿病は、強いインスリン抵抗性をともなうため、従来の糖尿病治療薬が効きにくく重症化しやすいことがわかっています。
網膜は眼底にある薄い神経の膜で、細い血管が張り巡らされています。糖尿病が進むとこの血管がもろくなり、出血したり網膜剥離を起こしたりして、失明の原因になります。
腎臓には糸球体という毛細血管の塊があり、老廃物を濾過する役割を担っています。糖尿病が進むと糸球体の血管が壊れるため、尿が出なくなるなど腎臓の機能が低下します。
糖尿病が進み血流不全になると、からだのすみずみに張り巡らされている末梢神経に、十分な酸素や栄養分がいきわたらなくなります。そのため神経細胞がダメージを受け、身体のしびれや痛み、感覚の鈍麻などが起こります。
高トリグリセリド(中性脂肪)血症とは
血液中の中性脂肪が著しく増加する病気です。
膵臓が急激に炎症を起こす疾患です。高トリグリセリド(中性脂肪)血症が進むと、急性膵炎のリスクが高くなることがわかっています。
高トリグリセリド(中性脂肪)血症は動脈硬化のリスクファクターとして知られています。特に、部分性脂肪萎縮症では動脈硬化症の進行が亢進することが注目されています。
脂肪肝とは
肝臓に中性脂肪が過剰に貯蔵された状態です。脂肪萎縮症では、脂質を貯蔵する脂肪組織がほとんどなくなってしまうため、代わりに肝臓に脂質が貯蔵されることにより、脂肪肝が起こりやすくなります。
脂肪肝が進むと肝臓に傷がつき、修復のために線維(コラーゲン)というタンパク質が増加します。これが肝臓全体に広がるために肝臓が硬くなり、機能低下を起こします。